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徳島地方裁判所 昭和57年(ワ)137号 判決

原告

吉田恒男

被告

村上哲也

主文

一  被告は原告に対し、金一一二万九七三〇円およびこれに対する昭和五六年七月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二〇分し、その一九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、一七八九万六八〇五円およびこれに対する昭和五六年七月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五六年七月二八日午後九時四〇分ころ、徳島県徳島市秋田町六丁目一九番地先路上三叉路交差点において、両国橋方面から二軒屋町方面に向け自動二輪車(徳島市て七三六一号、以下原告車という。)を運転し後記被告車より先に右交差点に進入し右折進行していたところ、被告は右日時場所において二軒屋町方面から富田町方面に向け普通乗用自動車(徳島五五ふ八八二六、以下被告車という。)を毎時一〇〇キロメートルの速度で運転進行させ原告車に衝突させた。

2  被告は、被告車の運行供用者であるから、本件事故によつて原告が受けた損害のうち、自賠法三条に基づき人的損害を、民法七〇九条に基づき物的損害をそれぞれ賠償する責任がある。

3  損害

(一) 原告は本件事故により昭和五六年七月二八日から同年一一月二日まで入院加療を要し、同年同月七日から同年同月二八日まで通院加療を要した硬膜下水腫、左膝部靱帯損傷、頸部捻挫の傷害を受け、その所有にかかる原告車を損壊された。

(二) 右受傷及び原告車損壊による損害額は次のとおりである。

(1) 治療費 八〇万四七一五円

内訳

(イ) 徳島県立中央病院宛昭和五六年七月二八日から同年同月二九日までの入院加療分、金一万〇八六九円

(ロ) 協立病院宛同年同月三〇日から同年一一月二日までの入院加療分、金七一万二九一六円

(ハ) 同病院宛装具代金六万五〇五〇円

(ニ) 同病院宛同年同月七日から昭和五七年一月二六日までの通院加療分、金五七二〇円

(ホ) 森整形外科宛昭和五六年一二月二一日から昭和五七年四月五日までの通院加療分、金一万〇一六〇円

(2) 交通費 五万一四四〇円

(3) 諸費用 一万三六五〇円

(4) 休業損害及び将来の逸失利益 一八二〇万一〇〇〇円

原告は、昭和四九年ころから、土木工事請負業を目的とする有限会社吉田組を設立し、その代表取締役に就任したところ、その請負工事施行高は、昭和五二年一月から同年一二月末まで金二四九三万三〇〇〇円、昭和五三年一月から同年一二月末まで金三八〇七万九〇〇〇円、昭和五四年一月から同年一二月末まで金四一〇〇万九〇〇〇円であつた。そうすると、右三年間の年平均施行高は金三四六七万三〇〇〇円となるが、原告は、本件事故の後においても、右平均施行高の七〇パーセントに該る工事すなわち施行高金二四二七万一〇〇〇円の工事を請負い、その二五パーセントに該る金六〇六万七〇〇〇円の年収を得ていたと言える。ところが原告は、前記受傷のため、前記入院及び通院期間中はもちろん、その後においても左膝関節部の痛みが残り、結局本件事故後三年間は右土木請負の休業を余儀なくされたあるいはされるはずであるので、一八二〇万一〇〇〇円の休業損害をこうむつた。

(5) 慰謝料 二〇〇万円

(6) 原告車全壊 一一万六〇〇〇円

4  損害の填補

原告は、自賠責保険から金三二九万円を受領したので、これを前項(1)ないし(5)の損害の一部に充当する。

5  よつて、原告は被告に対し、金一七八九万六八〇五円及びこれに対する不法行為の翌日である昭和五六年七月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、被告が原告主張の日時場所において被告車を運転中、原告運転の原告車と衝突したことは認めるが、被告が毎時一〇〇キロメートルの速度で運転していたことは否認し、その余は知らない。

2  同2のうち、被告が被告車の運行供用者であることは認めるが、その余は争う。

3(一)  同3(一)のうち、原告が本件事故により原告主張の傷害を受け、昭和五六年七月二八日から同年一一月二日まで入院加療を受けたことは認めるがその余は不知。

(二)  同3(二)のうち、(1)治療費の内訳(イ)、(ロ)、(ハ)のは認めるが、その余は知らない。

4  同4は認める。

三  抗弁

本件事故現場の交差点には信号機が設置され、被告車進行方向に対面する信号機は黄色燈火の点滅を表示し、原告車進行方向に対面するそれは赤色燈火の点滅を表示していたところ、このような場合、被告は原告が一時停止及びこれに伴う事故回避のための適切な行動をするものと信頼して運転すれば足りるのであるが、原告は一時停止をしなかつたばかりか、減速徐行の措置さえ講ぜず、右方向に対する安全確認を怠つたまま右交差点に進入してきたのであつて、このために本件事故が発生したのである。従つて、本件事故発生につき、被告には全く過失は存在しない。

また、仮に被告に過失があつたとしても、原告の損害は右に述べた点を斟酌して過失相殺により減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁のうち、本件事故現場の交差点には信号機が設置され、原告車進行方向に対面するそれは赤色燈火の点滅を表示していたことは認めるが、その余は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告主張の日時場所において原告車と被告車が衝突したことは当事者間に争いがないが、いずれも成立に争いのない乙第二ないし第五号証、証人吉井道広の証言および原被告各本人尋問の結果によれば、

1  本件事故現場交差点では、二軒屋町方面から同交差点に通ずる幅員九メートルの道路と、両国橋に通ずる幅員一〇・五メートルの道路と、富田橋に通ずる道路とが三叉路に交差しており、被告車は二軒屋町方面から毎時六〇キロメートルの速度で、原告車は両国橋方面から毎時三〇キロメートルの速度で、それぞれ右交差点に進行してきた。

2  交差点には信号機が設置されており、事故当事、被告車に対しては黄色点滅信号が、原告車に対しては赤色点滅信号がそれぞれ表示されていた。

3  原告は、交差点にさしかかり毎時二〇キロメートルの速度に減速したものの信号に従わないで一旦停止をしないまま交差点に進入し、二軒屋町方面に向けて右折を開始したところ、同方面から進行してくる被告車を発見したが、安全に右折できると考えてそのまま進行した。

4  本件事故現場道路の最高制限速度は毎時三〇キロメートルであつたが、被告は、被告車進行方向左手に建物があつてその見通しは悪いうえ、附近に照明はなく暗かつたにもかかわらず、自車に対しては黄色点滅信号が表示され、交差道路から来る車両に対しては赤色点滅信号が表示されているので、これら車両は一旦停止するものと考え、毎時六〇キロメートルの速度で進行したところ、交差点の約一三メートル手前で原告車が交差点に進入し右折して来るのを認めた。そのときの原告車は被告車から両国橋方向に約二二メートル離れた位置にあつたが、被告は危険を感じ急ブレーキの措置をとるとともにハンドルを右に転把したものの及ばず、被告車左前部を原告車前輪に衝突させた。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。(右事実中、本件交差点に信号機が設置されていたこと、原告車に対しては赤色点滅信号が表示されていたことは当事者間に争いがない。)。

二  右認定に基づいて被告の過失について検討するに、被告車は黄色点滅信号を表示されていたのであつて、原告車に優先する関係にあつたとは言え「他の交通に注意して進行」すべき義務があるうえ、本件交差点のごとく、信号機はあつても単に一方に赤色点滅、他方に黄色点滅の信号をくり返すに過ぎぬ状態の場合には、道路交通法三六条に言う「交通整理の行われていない交差点」に該当すると言うべきであるから、被告車は当該交差点の状況に応じ交差道路を通行する車両等に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行すべきであつた。のみならず、被告車は本件のような見通しが悪く照明も十分でない交差点を進行する場合には進路を十分警戒して徐行すべきであつた。

然るに、被告は、制限速度毎時三〇キロメートルを大きく超える毎時六〇キロメートルの速度のまま本件交差点を通過すべく進行し衝突回避不可能の距離に至つて原告車を認め、急制動、右転把の措置をとつたが及ばず、本件事故に至つたのであつて、その過失の存在は十分肯定できる。

他方、前認定の事実によれば、原告は、赤色点滅信号に従い一旦停止をして右方向から来る車の存否、安全を確認したうえで進行すべきであつたのみならず、被告車進行道路が優先道路であるからその進行妨害をしてはならなかつた(同法三六条二項)にもかかわらず、毎時二〇キロメートルの速度に減速したものの一旦停止をしないまま右折進行したのであつて、この原告の過失もまた本件事故の発生要因となつていることは否定できない。

そして、過失の態様、車両の種類等総合的に勘案すると、本件事故発生に対する過失割合は、原告六、被告四と認め、原告の後記損害に六割の過失相殺をするのが相当である。

三  損害について

1  原告が本件事故により原告主張の傷害を受けたことは当事者間に争いがない。

2  原告主張の治療費のうち、その内訳(イ)、(ロ)、(ハ)の支出については当事者間に争いがない。また、いずれも成立に争いのない甲第一七号証の二、第八号証の一ないし三によれば、原告が前記傷害により請求原因記載治療費内訳(ニ)及び(ホ)を支出したことが認められる。

3  いずれも成立に争いのない甲第九号証の一ないし一〇、第一〇号証の一ないし七によれば、原告は前記傷害により交通費として金五万一四四〇円を支出したことが認められる。

4  いずれも成立に争いのない甲第一一ないし第一四号証、第一六号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により、諸費用として金一万三六五〇円を支出したことが認められる。

5  休業損害ないし逸失利益について

(一)  原告本人尋問の結果、これによつて真正に成立したものと認められる甲第一八号証の二、三、四の1、2、五ないし八、いずれも成立に争いのない同第二号証、第一八号証の一、乙第二二号証によれば、原告は本件事故当時、有限会社吉田組の代表取締役として土木工事請負業を営んでいたこと、右会社は実質的には原告の個人企業であつて右会社の収益は当然に原告個人の収入となるというものであつたこと、右会社の年度別完成工事高は、昭和五三年一月から同年一二月末まで金三八〇七万九〇〇〇円、昭和五四年一月から同年一二月末まで金四一〇〇万九〇〇〇円、昭和五五年一月から五月末まで金三〇一七万七〇〇〇円であり、その純利益率は施行高の二五パーセントを下らないこと。ところが同年五月ころから工事の注文が途絶え、そのような状態が本件事故まで続いていたこと、原告経営のような小規模零細の土木工事請負業は絶えず注文があるわけではなく時期によつてばらつきがあることなどが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はないが、以上の事実を総合的に勘案すれば、損害算定の基礎とすべき原告の年収は、過去三年間の年平均施行高である金三六四二万一六六六円の六割に該当する額に純利益率二五パーセントを乗じた額すなわち金五四六万三二四九円と認めるが相当である(以上一円未満切捨て)。

(二)  ところで、原告が前記傷害により、昭和五六年七月二八日から同年一一月二日まで入院し、治療を受けていたことは当事者間に争いがなく、前掲甲第一七号証、第八号証の一ないし三によれば、原告が右同日より昭和五七年四月五日まで通院し治療を受けていたことが認められる。

また、いずれも成立に争いのない乙第九ないし第一一号証、原告本人尋問の結果によれば、原告には前記傷害の後遺症として左膝関節部に鈍痛が残り、休憩を間にはさまなければ歩行することができないという状態となつたばかりでなく、それまでの工事施行においては営業にとどまらず自ら建設機械を操縦し、これによつて工期、工事代金などの注文に応じられたので受注工事の確保ができていたが、右後遺症により工事の受注が思うようにいかなくなつたこと、しかし昭和五七年一〇月ころ原告自ら機械の操縦をしないで行う工事を請負いこれを完成したこと、右後遺症は昭和五八年六月二九日現在においても続いていること、以上が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  右認定の事実を総合すれば、原告は昭和五六年七月二八日から昭和五七年四月五日まで休業の止むなきに至つていたと認めるのが相当である。

従つて、前示(一)の年収を基礎に計算すると、原告は右休業期間に金三七六万九四一八円の収入を失つた(一円未満切捨て)。

また、昭和五七年四月六日以降については、原告の後遺症による労働能力喪失の割合を検討するに、前認定の後遺症の部位、程度、原告の職業、年齢(昭和六年一二月九日生、原告本人尋問の結果により認める)。及び労災補償保険上労働能力喪失率の基準とされていることが職務上顕著な労働基準局長通牒(昭和三二・七・二基発第五五一号)等を総合すると、原告は昭和五七年四月六日から八年間にわたり平均して少くとも一四パーセントの労働能力を喪失したものと認められる。

よつて、右逸失利益の昭和五七年四月当時の現価をライプニツツ方式により算定すると、次のとおり四七九万四一〇四円となる。(一円未満切捨て)。

546万3249円×0.14×8×0.7835=479万4104円

764854 6118832(係数)

6  慰謝料

前認定にかかる原告の受傷内容、後遺症の内容及び程度、生計等への影響を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛を慰謝するために相当な額は金一五〇万円を下らないと認められる。

7  物損

いずれも成立に争いのない甲第一五号証の一、二、乙第二号証によれば、原告車は本件事故により使用不能となり、これによつて、原告は金一一万六〇〇〇円の損害をこうむつたことが認められ、これに反する証拠はない。

四  請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

五  結論

そうすると、原告の本訴請求は、被告に対し金一一二万九七三〇円およびこれに対する不法行為の翌日である昭和五六年七月二九日から完済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、その限りでこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 能勢顯男)

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